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  • Eriko Imaizumi

「企業研修の必要性(重要性)~ リスク管理のためのコンプライアンス研修



進化するコンプライアンス研修と企業のリスク管理

 企業研修の中で、近年最も注目されているものがコンプライアンス研修です 。企業の社員に、国や州、会社が定める法律やポリシーにのっとった行動を教えるための研修のことを指します。セクハラ、パワハラ研修や、最近ではダイバーシティ(多様性)研修、サイバーセキュリティ、業務上の安全について、また独禁法や腐敗法についての知識を教えることもコンプライアンス研修に入ります。社内にCode of Conduct(社内規範)を定め、社員に遵守を約束してもらう企業が多いと思いますが、これとセットになっている場合が多いです。


 一般的にコンプライアンス研修、と聞くと無味乾燥、長くて退屈、受講するのが苦痛、企業の法務部が事務的に作ったビデオでの研修、などを想像する人も多いかとと思います。社員が内容を理解することも重要ですが、社員が受講したという記録を取ること自体が重要な目的になっている研修という位置づけでもあります。


 そんなコンプライアンス研修も時代によって変化してきています。最近ではアテンションスパンが極端に短いZ世代にも楽しんで受講してもらうために、ユニセックスなかわいいアニメを使って、5分から10分程度のモジュールに分かれた、携帯でも無理なく受講できるコンプライアンス研修が米国では主流になってきています


 コンプライアンス研修とは、その名の通り法律やポリシーを社員に理解してもらい、それに準じて行動してもらうための研修なので、企業のリスク管理に直結しています。長期に渡ってきちんとコンプライアンス研修を実行すれば、それが社員の行動の一部、意識の醸成や企業文化となり、企業の不祥事が防げるわけです。企業の経営陣の中には「コンプライアンス研修は一時的なもので、社員にできるだけ負担を掛けずに、年に1回だけ実施したい」、とおっしゃる方がいらっしゃいます。しかしながら、一度コンプライアンス研修を受けただけでは身につかないばかりか、忘れてしまうことの方が多いのです。本来、その人の行動の一部にしてもらうことが目的なので、同じテーマの中の違うコースを繰り返し、期間を空けて受講してもらうことが定着につながります。受講時間も短く、アニメーションなどを使って分かりやすく説明され、内容もしっかりしているコンプライアンス研修だったら、その目的が無理なく達成できると思いませんか?


それでは次に 、日本人にとってなじみが薄い、差別や多様性についてのコンプライアンス研修について、現実味を感じてもらうためにも在米日系企業が巻き込まれている訴訟問題にはどのようなものがあるのか、事例と共に紹介していきます。



在米日系企業の抱える訴訟問題


 フォローしている文献 を見る限り、2022年は在米日系企業の間に大きな人事訴訟、労働組合結成など、企業経営の根幹を揺るがす可能性がある事件が多く見られました。特に日系企業が巻き込まれている人事訴訟では、人種、性差別、報復措置の訴訟から、システム不備で病欠日数を法律で定めるより少なく計算し集団訴訟に遭った例、経年の最低賃金以下の賃金支払いに反対して、社内で労働組合結成の動きが出たが、それを阻止しようとしてNLRB(全米労働委員会)から訴えられ、現在は最高裁で争われる例など、いろいろな事例が進行しています。日系企業の米国子会社が訴えられたのに、残念ながら日本の本社の関与も疑われて、訴訟金額が巨額になる可能性の事例もいくつか存在しています。その中の主なものを例として、次に挙げていきます。


女性弁護士性差別訴訟

 ある在米日系企業に長年勤めていた経験豊富な女性社内弁護士が、女性だという理由でその企業の法律顧問職への昇格が認められず、最終的に解雇されてしまったという事例です。この会社には、既に女性の法務顧問がいたことから、会社側は経験も勤続年数も劣るものの、2人目の法務顧問には男性弁護士をと望み、男性を社外から雇ってその職に据えてしまったのです。その上、この女性社内弁護士から以前セクハラ加害者として調査を受けた日本人経営陣の一人が、その時のことを根に持って、彼女の昇格を阻んだという事実もあったようです。そんな報復措置につながる男性優位の企業文化が 問題になっています。法務顧問の人事には日本の本社も関わっていたということで、米国子会社と日本の本社両方が被告となっています。日本本社を含め、性差別を防ぐ研修などを企業ぐるみで本気で行っていれば、性差別に対する意識の醸成ができていたかもしれません。また、その努力が訴訟において情状酌量される可能性もあったかもしれません。


黒人弁護士人種差別訴訟

 黒人の男性社内弁護士が、白人の同格の同僚に対して昇給、昇格が劣っていると会社に訴えたところ、身に覚えのないセクハラ容疑をかけられて解雇されてしまった例です。これは2021年に起こされた訴訟で、上司である米人社長とその米国子会社、日本の本社も被告として名を連ねています。こちらは現地の米人社長が中心に起こした例で、アメリカ人の社長ならば差別問題は起こらないだろうという、たいていの日本人が持つ考え方を、残念ながら完全に裏切った形になっています。


女性差別集団訴訟

 女性差別が根強い業界にある、ある在米日系企業の女性社員たちの集団訴訟の事例です。2021年に一人の女性社員が州の連邦裁判所に訴えを出し、現在は9人が参加して団体訴訟の可能性が増しています。訴状には「人事部に女性差別を訴えても何の是正措置も取らない、女性を優秀な従業員として評価、昇格させない、女性の昇格評価に家族構成が論議される、社内の性差別コミッティーが全員男性」など、企業文化として女性蔑視が存在した事実が列記されています。ここで注記したいのは、この訴訟の損害賠償が天文学的な数字になりそうなことです。この業界では既に米国の2つの有名企業が有罪判決を受けており、そのうちの1社は100億ドルもの懲罰的損害賠償の支払いが命じられているのです。この日系企業のこれからの進捗が心配されるところです。


従業員との「対話」の重要性


 近年、米国における企業内のパワーが、経営陣から従業員にシフトしています。コロナ後の人材難も、このトレンドに追い風です。そんな中で、従業員が声を上げる例が増加し、またEEOC(雇用機会均等委員会)などが会社を起訴しやすいように環境整備したことがあります。そして会社側との会話に、団体交渉の力を借りるために労働組合を結成する例も多く、特に若い世代に労働組合に賛同する率が増えています。


 それでは、このような大きな動きの中、どのように人事紛争や訴訟のリスクを回避したらいいのでしょうか。


 実際に従業員から不満が出た時に、すぐにその問題に対処することが一番重要です。経営者側が従業員とじっくり対話し、問題に向き合う姿勢があることが求められるのです。訴訟を防ぐ会社側の態度として、そのリストを挙げます。これは最近の弊社のHRコンサルタント、人事労務弁護士との会話で挙がったものです。


  1. 従業員からの不平不満に対し、時期を置かず、何事にも真剣に対応する

  2. トップから、定期的にあらゆる差別撤廃のコメントを全社配信して意識向上を促す

  3. 差別をなくすための社内コミッティーを作り、定期的に活動する

  4. 社員全員にEラーニングによるコンプライアンス研修を必須とし、その受講データを保存する


上記のなかで特に注目しておきたいのが、4番のEラーニングの受講データを保存することです。そのデータがあれば、人事紛争や訴訟があった時に、差別撤廃のために会社が熱心に社員教育を続けたことの証明となり、大きな訴訟問題になることを回避するためのアピールに役立ちます。万が一訴訟になった時に、このようなデータを全く持っていなかったらどうでしょうか。会社ぐるみで’差別を黙認していたと判断されかねません。さらには、会社にそのような事件を起こす温床があったと見なされるかもしれないのです。

 米国で従業員側へのパワーシフトが起こっている中で、在米の日系企業訴訟に本社の関与が認められたら、途方もない賠償金額が請求されかねません。日本の本社を米国での訴訟から守るためにも、米国にある支店や子会社は、コンプライアンス研修に真剣に取り組み、リスクを回避することは大変重要なことなのです。


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