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  • aliciamarie0

「コーチングに私のフィロソフィーを使っていますか?」稲盛和夫さんの思い出



盛和塾の塾長であられた稲盛和夫さんに最初にお会いして、実際に会話を交わしたのは、2011年にアメリカでシカゴ塾が開塾したときでした。当時、私は盛和塾ニューヨークで英語勉強会を担当しており、シカゴ開塾式では、英語勉強会を運営している世話人たちが、稲盛和夫さんと昼食をご一緒する光栄に預かったのです。呼ばれたのは、ハワイ、シリコンバレー、ロスアンジェルス、ニューヨーク、ブラジルの5塾の英語勉強会担当世話人9人でした。稲盛和夫さんの泊っているホテルの部屋は続きの部屋があるスイートで、そこで各地から集まった9人が炊飯器を持ち込み、おにぎりを握って、おかずはシカゴの塾生のレストランから取り寄せ、昼食会を開きました。聞いたところによると、稲盛和夫さんが各地の稲盛和夫さん例会に訪れるときには、地域の塾生たちがいつも稲盛和夫さんのホテルの部屋でご飯を焚き、おにぎりを握って、それを食べながら和やかな昼食会をするのだそうです。それをシカゴでも踏襲した形になりました。


私はまだ塾に入って2年目の若輩でありながら、稲盛和夫さんとたった10人でテーブルを囲んでお昼をいただくことになり、緊張でほとんどしゃべれなかったのを覚えています。でもしゃべれないのを隠そうと、しっかりとおにぎりは食べていました。


一人ずつ自己紹介をすることになり、まだ緊張が溶けない中、私の番になりました。「ニューヨークを本拠に全米の日本人の駐在や経営者の方にコーチングをしています」と自己紹介したところ、稲盛和夫さんは「コーチングですか。僕のフィロソフィーを使っていますか」と聞かれたのです。私はてっきり「それは何ですか」と聞かれるのを覚悟していたので、稲盛稲盛和夫さんはコーチングをご存じなんだ、と心が明るくなり、同時に今とても重要なことを聞かれたな、と感じました。「コーチングにフィロソフィーを使わなければ、あなたはどうやってコーチングをしているんですか」と聞かれたのも同然だったのです。


私の答えは「はい、もちろんです。それがなければ全然コーチングできてません」というものでした。でもこれは、以前から考えていた自分で知っていた答えではなく、稲盛和夫さんの質問によって、とっさではあっても、考えたことがない潜在意識から上がってきた答えでした。実際、こんな答えがすぐ出てきた自分自身にびっくりしたのです。同時に「やられた!」と感じました。その理由は、これがコーチング会話そのものだったからです。稲盛和夫さんの質問によって「ああ、そうだったのか」と、自分では気づいていなくとも、自分のコーチングの軸や底辺を形作っていたものが、厳然と目の前に現れた気がしました。


そうなのか、私がやってきたエグゼクティブコーチングの土台は盛和塾で勉強してきた経営哲学だったんだ、という気づきがありました。MBAで学んだことや、これまでに読んだたくさんの本などが織り合わさって土台を作り上げていたのだと思いますが、その中でも特に中心を占めていたのは盛和塾で学んできたことだったんだ、と気づいたのです。


2度目に2012年に開催されたロスアンゼルスの例会でお会いした時は、ほかの塾生が席を譲ってくれ、稲盛和夫さんの隣に5分ほど座らせていただく機会をいただきました。その時には自分の研修、コーチング事業があまりうまくいっていない、というお話をしました。すると稲盛和夫さんは「駐在員相手の仕事は大変だと思いますよ」とおっしゃいました。それに対して私は「でもこちらに来たからと言って、研修やコーチングを全くしないというのはもったいないと思います。海外に出た時こそ、いろいろな経験をしながら、コーチングなどを受けて自分の可能性を高めるチャンスだと思うのですが」と反論しました。稲盛和夫さんは、「そうねえ、でも日本の企業はそう思っていないからねえ」と返し、それ以上はそれについては何もおっしゃってはいただけませんでした。


この時には「頑張りなさい」と、もっと励ましてくれるものと思っていたのに見事に肩透かしに会い、あろうことか稲盛和夫さんに反論してしまったのです。そのうえ、「それでもやってみよう」と決心しました。稲盛和夫さんは、果たして、ビジネスのイロハである市場の成長段階をしっかり見極めなければいけない、そうでないと徒労に終わることもあり得る、ということをおっしゃっていたのだと気付いたのはずいぶん後のことでした。


それからはや11年という長い時間が流れ、それでも私はまだコーチング、研修、そして今は、日系企業向けにコンプライアンス研修のEラーニング配信にまで手を出しています。まだ自分が思う通りの結果は出ていません。稲盛和夫さんに反論し、やめればよかったのかもしれない事業をまだ細々と続けています。それは、海外に進出してきた日系企業を研修やコーチングでサポートすることで、ひいては日本経済に貢献できるはずだ、という私なりの事業の意義目的を心から信じているからです。そして、そのために私ができることはやっぱりコーチングと研修だ、と腹をくくったからです。今では日本で研修事業をしている会社ともつながり、世界ブランドを形成しよう、という話も持ち上がってきています。

これからも稲盛和夫さんがお聞きになった「私のフィロソフィーを使っていますか」という問いを大事にして、いつもその質問に胸を張って「はい、稲盛和夫さんのフィロソフィーがなければコーチングになっていません」と答えられるようにしていきたいと思っています。そして私のコーチングを通じて一人でも多くの方が「人間として正しいことをする」という事業経営における大前提を理解して存分に実力を発揮し、日本のビジネスのクオリティの高さを世界に示していけるようにと、心から願っています。

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