米国においてDEIを受け止める風潮がずいぶん広がってきた感じがします。性差別、年齢差別、性的志向の差別排除などから広がり、最近は障がいを持った人たちのInclusionへの意識が広がってきています。ここでは、最近経験した5つのエピソードをお伝えします。
今年のアカデミー賞のBest Pictureを受賞した”Coda”は、耳の聞こえない家族の中で、ただ一人耳が聞こえる娘が、歌手になる夢を実現させる映画でした。どんなに彼女が歌がうまくても、家族は聞こえない皮肉。それでも夢をかなえてあげるために、家族や地域が一体になって応援する映画でした。最初見たときには、感動して泣きました。
2番目。今はやっている還流ドラマの一つに”Extraordinary Attorney Woo‘というドラマがあります。これは自閉症の女性が弁護士になって活躍するドラマ。彼女の弁護士としての辣腕ぶりも鮮やかながら、彼女の純粋な見方が、見ている人の心をさわやかにします。知人で、やはり自閉症の息子を持つ人からこのドラマを勧められたのです。弁護士Wooさんの演技上のしぐさが、自閉症の息子にそっくりで、彼の将来にも希望が持てるようになったと言っていましたし、多くの人がドラマを見ることで、自閉症特有のしぐさや声の出し方などにも、怪奇な目で見ない人が増えれば、自閉症の人にとっても本当のInclusionが進むのだと思います。
そしてイギリスBBCのトラベル番組。こちらは一人は車いす、もう一人は成長障がいで、身長が極端に低く両手首もないレポーターが、それぞれ世界を股にかけて旅行し、各地を精力的に紹介する番組。両手がなくて、どうやって食事をするのかと思うでしょうが、それもしっかり映します。車いすでどうやって段差を乗り越えるのかと思っても、周囲に声をかけてガンガン進んでいきます。彼らの明るいこと、強いこと。障碍者としてのひがみや暗さなど一片もありません。障碍者も健常者と何も変わらない、彼らを普通の社員として支えたい、というBBCの意志の強さが画面から伝わってくる番組です。
まだあります。弊社と一緒に活動していた米人HRコンサルタントの話も興味深いものでした。ある日彼女が勤める会社でAdministrative assistantを採用するのに何人かの応募者を面接していたところ、その中の一人は肘から先の手がなかったそうです。彼女はHRのプロでありながら、少なからず驚き、自分の中で「どうやってメールを打つんだろう?」という疑問を消し去ることができず、どうやってそれを聞こうかと考えを巡らせたそうです。結果、Job descriptionを見せて「これを全部行うことができる?」と聞きました。結果は「Yes」。それ以上、どうやってタイプするのかなどは、差別的質問になるので聞けません。ほかのスキルのレベルや必要なスキルも希望する人材にピッタリ合っていたので、会社はその人を採用したそうです。出社すると、その新人は義手を付けて、すらすらと仕事をこなしていったそうです。
最後のエピソードです。2年前、弊社がNY市政府からEラーニングコースの製作を請け負いました。コースの題名は”Disability Awareness”. NY市には市長付きの局の一つにThe Mayor's Office for People with Disabilities という、NY市全体の障碍者の声を、政治に反映させることを目的としている局があります。弊社が制作に関わったこのEラーニングコースは、MOPDの悲願ともいえるもので、市の30万人の従業員に、障碍者と気持ちよく働くためのエチケットや知識を付けてもらい、障碍者への意識向上に役立てよう、という思いが込められたものでした。もちろん、内容を書くのも、コースに対してコメントしたり、レビューしてくれる人たちはみんな障碍者。目の見えない人、耳が聞こえない人、成長障がいで身長が低く、声の出し方や話し方に特徴のある人、みんながAccessibility を試し、マウスを使わなくでも履修できるやり方、キャプションの入れ方、ここが動かない、これは使わない、といろいろコメントをくれました。ボイスオーバーの声優も弱視の人を用い、私にとっての本当のDisability Awarenessになった経験でした。そしてこの話には落ちがあります。一緒に働いていたMOPDの障害のある社員4人のうち、2人がプロジェクトが終わらないうちにほかの団体や企業に引き抜かれていきました。アメリカは懐が深い国だから?いえいえ、単純に、彼らが求められていたスキルを持っていたからこそ、次の場所でもっとポジションの機会が提供された、ということです。
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